地域のいらないものを資源に−立花テキスタイル研究所
瀬戸内海の多島美を眺める広島県尾道市の向島で、「地域の材料のみを使う」というポリシーを持ち、帆布製品を製作・販売している「立花テキスタイル研究所」。
代表の新里カオリさんは、学生時代に広島へ旅行に来たのがきっかけとなり、2008年に関東からIターンで移住しました。
循環型社会を追求し、多方面で活躍する彼女に、モノづくりの哲学を伺います。
地域の資産とは? 廃棄物も利用したモノづくり
私たちの製品について、簡単にご説明しますね。まず、自分たちで栽培した在来種の和綿と、地域の農家さんに育ててもらった洋綿をブレンドした糸で、100%自社オーガニック綿の帆布を作り、それで草木染め(植物を用いた染色)のカバンやカードケースなどを製造しています。
草木染めは、「抽出(鍋で植物から色素を煮出す)」→「染色(その液で繊維を染める)」→「媒染(金属系の物質を用いて、染料を繊維に定着させる)と工程があり、私たちは抽出の際に農家さんから出た剪定枝などを、媒染の際に地元の鉄鋼所から廃棄される鉄粉など使用しています。
それから、藍染めで使う藍(タデ科の植物)や柿渋染めの柿渋液(渋柿から得た液を発酵・熟成させた液体)も、自社や農家さんへの委託で製造しています。原料から製品になるまで、1年半〜2年半は掛かりますね。
社会貢献に繋がる商品
コットンで言うと、海外から石油を使って船で輸入すれば、そのぶん運搬エネルギーが掛かるので、近いエリアで取れるものを利用する方が良いと考えています。
また、染料は文献に載っているような希少で高価な材料を使えば、綺麗な色を出せますが、私たちはそこに価値を感じません。お客様にせっかくお金を出して頂くので、農家さんの支援や、資源のリサイクルという「エコ」の部分につなげたいんです。個人で社会貢献をするのは難しいかもしれませんが、私たちの商品がその選択肢になればと思っています。
エコなモノづくりの原動力
単純に楽なんです。
染色に化学的なものは一切使用していないので、自分たちの体に害はないですし、排水もそのまま流せます。気持ちの面でも、自然環境への循環が納得のいく中で、モノづくりをしたいと思っています。
それから、うちの商品は、この地域の何百人もの方々が関わっているため、私個人としても「自分がやりたくてスタートしたけれど、お金がなくなったので辞めます」とはなれません。それ程の覚悟がないと続けられないですね。
商品の生まれ方、値段の意味
何かを作ることや育てることはプリミティブ(原始的・素朴な)な作業なので、誰でもやろうと思えばできます。でも、モノづくりに関わったことがない方からすれば、目の前のカラフルな服は、自分では到底なしえないような、湧いて出たようなもののように感じることでしょう。
一度、想像してみてください。
皆さんが身につけている服も、誰かが棉の種を蒔き、草取りをしながら半年待って、手で収穫して、糸にして染めて、と多くの時間と労力を掛けてできたものです。そうやってできたものが、なぜ1着998円で買えるのでしょうか?
「何を買い、使い続けるのか?」という判断が、今の時代に大切だと思います。
新里さんのモノづくりへの強い思いは、人・生きもの・物に対する深い愛情が根底にあり、それは周囲の人々に広がりを見せています。
購入者と生産者で作るサステナブルな未来は、あなたが手に取った、その商品の先にあるのかもしれません。
インタビュー・文/松田 美紀